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CASE 症例紹介

犬の膝蓋骨内方脱臼 グレード4の治療

こんにちは。今回は、以前(2022年1月5日)に症例紹介で取り上げました『犬の膝蓋骨脱臼』のグレード4の治療についてご紹介したいと思います。

  • 膝蓋骨脱臼グレード4の特徴

膝蓋骨脱臼には脱臼の程度によって、1〜4までのグレード分類があります。グレード4は「膝蓋骨は常に脱臼しており、徒手にて整復ができない」と定義されています。また、グレード4はグレード3以下のものとは異なり、大腿骨や脛骨に様々な程度の変形が認められることや、脱臼する力が強いことから、手術の難易度は高く、術後合併症が発生しやすい傾向にあります。

そのため、膝蓋骨脱臼グレード4の治療には骨の変形を矯正する骨切り術などの術式を併用することがあります。

  • 膝蓋骨内方脱臼グレード4の症状

膝蓋骨脱臼グレード4は、多くの症例で足先の内旋を認めます。足の変形が認められても無症状の場合もありますが、症状が強い場合は、膝関節の機能が損なわれ、足をうまく使うことができないこともあります。

写真:10歳トイプードルの左後肢の膝蓋骨内方脱臼グレード4の症例。左の足先は重度に内旋しており、足先をうまく着地することができなくなっています。


  • 実際の手術症例1

・犬種:チワワ

・年齢:9歳齢

・体重:4kg

・主訴:小さい時から左後肢が曲がっている様子がみられており、最近になって左後肢をかばうようになってきた

術前のレントゲン写真:右後肢と比べて左後肢では、膝蓋骨が内側に変位し(黄色矢印)、大腿骨遠位の重度の内反変形を認めます(赤線)。

術後のレントゲン写真:膝蓋骨の脱臼が整復され(黄色矢印)、大腿骨の楔形骨切り術によって大腿骨の内反変形も矯正されています(赤線)。赤矢頭は骨切り部位を示します。

  • 術式

  1. 大腿骨遠位楔形骨切り術(DFO):大腿骨遠位に楔形の骨切りを実施し、大腿骨外側および大腿骨前面をチタン製プレートで固定しました。これによって、大腿骨の内反変形が矯正されています。
  2. 滑車造溝術(ブロックリセッション):大腿骨滑車溝を深く形成することで、膝蓋骨が脱臼しづらくなっています。
  3. 脛骨粗面転移術(TTT):脛骨粗面を骨切り後に外側へ転移し、ステンレスピンで固定しました。これによって膝蓋骨の軸を修正しています。
  4. 外側関節包縫縮術:膝関節の外側を縫縮することで、膝蓋骨を外方へ引っ張るようにしています。
  5. 縫工筋前部の切離、内側関節包部分開放術:膝蓋骨が内側に引っ張られる力を弱めています。
  • 術後の経過

術後数日で患肢の着地がみられはじめ、術後2週間では跛行もなく歩けるようになりました。術後は安静と運動制限を指示しておりましたが、術後3ヶ月で骨切り部位の骨癒合を確認したため、安静を解除しました。術後の合併症もなく、経過は良好でした。


  • 実際の症例2

・犬種:チワワ

・年齢:9ヶ月齢

・体重:3.5kg

・主訴:6ヶ月齢から左後肢をかばうようになり、段々と症状が悪化している。左後肢が内側に曲がってきている。

術前のレントゲン写真:症例1と同様に右後肢と比べて左後肢では、膝蓋骨が内側に変位し(黄色矢印)、大腿骨遠位の内反変形を認めます(赤線)。また、脛骨近位の内反変形も認めます。

術後のレントゲン写真:膝蓋骨の脱臼が整復され(黄色矢印)、大腿骨の楔形骨切り術によって大腿骨の内反変形も矯正されています(赤線)。赤矢頭は骨切り部位を示します。

  • 術式

  1. 大腿骨遠位骨切り術:大腿骨遠位に骨切り(内反変形矯正・骨短縮・外旋矯正)を実施し、大腿骨外側をチタン製プレートで固定しました。これによって、大腿骨の内反変形が矯正され、膝蓋骨が大腿骨滑車溝上に位置するようにしています。
  2. 滑車造溝術:大腿骨滑車溝は無形成であったため、骨・軟骨を削り造溝しました。これによって、膝蓋骨が脱臼しづらくなっています。
  3. 脛骨粗面転移術:脛骨粗面を骨切り後に外側へ転移し、ステンレスピンで固定しました。これによって膝蓋骨の軸を修正しています。
  4. 縫工筋前部の切離、内側広筋の切離、内側関節包開放術:膝蓋骨が内側に引っ張られる力を弱めています。
  • 術後の経過

術後翌日から患肢の着地がみられはじめ、術後2週間では跛行もなく歩けるようになりました。時折、患肢をかばう様子がみられましたが、術後2ヶ月で骨切り部位の骨癒合を確認したため、安静を解除しました。術後の大きな合併症はなく、経過は良好でした。


  • 実際の症例3

・犬種:トイプードル

・年齢:6ヶ月齢

・体重:1.9kg

・主訴:4ヶ月齢から両側後肢をケンケンするようになり、5ヶ月齢から左後肢が地面につかなくなった

術前のレントゲン写真:両側の膝蓋骨が内側へ重度に脱臼し、大腿骨から完全に離れている様子が分かります(黄色矢印)。また、大腿骨遠位は内反変形し、左後肢では脛骨近位の重度の内旋も認めます。

術後1ヶ月のレントゲン写真:膝蓋骨は滑車溝上(黄色矢印)にあり、大腿骨の変形も矯正されています。

  • 術式

  1. 大腿骨遠位骨切り術:大腿骨遠位に骨切り(内反変形矯正・骨短縮)を実施し、大腿骨外側をチタン製プレートで固定しました。これによって、大腿骨の内反変形が矯正され、膝蓋骨が大腿骨滑車溝上に位置するようにしています。
  2. 滑車造溝術(ブロックリセッション):大腿骨滑車溝を深く形成することで、膝蓋骨が脱臼しづらくなっています。
  3. 脛骨粗面転移術:脛骨粗面を骨切り後に外側へ転移し、ステンレスピンで固定しました。これによって膝蓋骨の軸を修正しています。
  4. 外側関節包縫縮術:膝関節の外側を縫縮することで、膝蓋骨を外方へ引っ張るようにしています。
  5. 縫工筋前部の切離、内側広筋の切離、内側関節包開放術:膝蓋骨が内側に引っ張られる力を弱めています。
  • 術後の経過

術後は1週間ほど足先の浮腫がみられましたが、徐々に改善し、患肢も着地できるようになりました。術前から大腿四頭筋の拘縮が認めれれていたため、飼い主様には大腿四頭筋のストレッチを毎日実施していただきました。術後1ヶ月では、患肢の跛行もなく、骨切り部位の骨癒合が確認されたため安静を解除しました。術後の合併症もみられず、経過は良好でした。


  • 実際の症例4

・犬種:グレートピレニーズ

・年齢:1歳齢

・体重:50kg

・主訴:3ヶ月前から右後肢を跛行するようになり、最近は常に右後肢をかばっている

術前のレントゲン写真:右後肢の膝蓋骨は内側に変位し(黄色矢印)、右膝関節内に重度の関節液貯留を認めました(赤矢印)。

術前のCT検査から作成した3D画像:全身麻酔下でCT検査を実施し、様々な角度から大腿骨の変形程度を評価しました。また、CT検査のデータから実寸大の骨模型を作成し、手術シミュレーションを行いました。

術後のレントゲン写真:膝蓋骨の脱臼が整復され(黄色矢印)、大腿骨の骨切り術によって大腿骨の内反変形も矯正されています。赤矢頭は骨切り部位を示します。また、術中所見として、大腿骨内側滑車稜に重度の軟骨障害を認め、これが関節液貯留と疼痛の原因となっていました。

  • 術式

  1. 大腿骨遠位骨切り術:大腿骨遠位に骨切り(内反変形矯正・骨短縮)を実施し、大腿骨外側をチタン製プレートで固定しました。これによって、大腿骨の内反変形が矯正され、膝蓋骨が大腿骨滑車溝上に位置するようにしています。
  2. 滑車造溝術(ブロックリセッション):大腿骨滑車溝を深く形成することで、膝蓋骨が脱臼しづらくなっています。
  3. 脛骨粗面転移術:脛骨粗面を骨切り後に外側へ転移し、ステンレスピンおよびテンションバンドワイヤーにて固定しました。これによって膝蓋骨の軸を修正しています。
  4. 外側関節包縫縮術:膝関節の外側を縫縮することで、膝蓋骨を外方へ引っ張るようにしています。
  • 術後の経過

大型犬の膝蓋骨脱臼の術後合併症率は小型犬に比べて高い傾向にあるため、術後は3週間入院し、厳重な安静管理を行いました。術後3週目のレントゲン検査にて骨切り部位のある程度の骨癒合を確認したため、その後は退院して自宅での安静管理を行なっていただきました。術後は徐々に患肢を使用するようになりましたが、術後2ヶ月で膝関節の腫脹と跛行を認めたため、脛骨粗面転移術で設置したステンレスピンおよびワイヤーを手術にて抜去しました。術後3ヶ月で骨切り部位の完全な癒合を確認したため、安静を解除しました。術後6ヶ月では合併症も認められず、患肢の跛行は消失しました。


まとめ

膝蓋骨内方脱臼グレード4はグレード3以下のものとは異なり、術後合併症率が高い傾向にあります。合併症の内容としては再脱臼が最も多く、その他に骨折や手術部位感染、インプラントの破綻などが挙げられます。また、グレード4の症例では様々な程度で大腿骨や脛骨の骨変形がみられることが多いです。骨変形を矯正するためには、大腿骨骨切り術や脛骨骨切り術などが必要になることが多く、手術難易度も高い傾向にあります。そのため、グレード4の症例では術前の骨変形の評価が重要となり、時には術前のCT検査が必要になることもあります。

獣医師からのメッセージ

当院では様々な犬種・グレードの膝蓋骨脱臼に対応しております。整形外科専門診療に従事してきた医療を患者様・ワンちゃんにご提供できればと思います。

整形外科担当獣医師:保田裕起

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