お問い合わせ
076-475-8753

診療時間|8:30~11:30 / 16:00~18:30 ※土曜午後は14:00~16:00
休診日 |日曜・祝日

CASE 症例紹介

関節鏡検査・関節鏡下手術

こんにちは。今回は犬の関節手術に特化した関節鏡を用いた検査・手術についてご紹介します。

  • 関節鏡とは

一般的には関節疾患を診断・治療するためには関節切開術が行われます。関節切開術では、関節内を肉眼的に確認するために大きな皮膚切開や関節包(関節を形成する膜)切開が必要になります。そのため、術後の疼痛が強く、術後の回復に時間がかかります。

それに対して、関節鏡検査は小さな皮膚切開創(約5mm)を2~3つ作成し、関節内に硬性内視鏡や手術器具を挿入し、関節疾患の診断や治療を行います。そのため、術中および術後の痛みを軽減させることができます。また、関節切開術をおこなった場合と比較して、術後早期の回復が可能です。さらに、関節鏡検査では関節内部を拡大して詳細に観察することができます。これによって、小さな関節内病変でも検出することができ、診断精度が高いことも大きなメリットです。

  • 関節鏡検査の適応は?

犬の関節鏡検査が適応となる関節は主に、肩関節・肘関節・膝関節になります。関節鏡検査・手術を行う代表的な関節疾患を以下に挙げます。

  • 膝関節

前十字靭帯断裂(CrCLR)の診断および半月板の評価・処理

CrCLRは最も関節鏡検査を行う頻度の多い疾患です。関節鏡検査では関節内構造物(前十字靭帯・半月板)の正確な評価が可能であり、肉眼では評価が困難である部分断裂や靭帯の変性を診断することができます。また、CrCLRでは関節内のクッションの役割をしている半月板が損傷しているケースが多く認められます。関節鏡検査では、損傷した半月板の評価と処理を同時に行うことができます。特に中型・大型犬では関節鏡を使用した方が手術侵襲が少なく、術後の機能回復が早いというメリットが大きいです。

CrCLRの治療としては、関節鏡手術に加えて、膝関節の安定化のための手術(TPLO、TTAなど)が併用されることが一般的です。

  • 肩関節

①離断性骨軟骨症(OCD)

OCDとは、上腕骨頭の関節軟骨が成長障害によって損傷を受けやすくなり、軟骨が剥がれ落ちる病気です。関節軟骨に糜爛(びらん)が生じるため、痛みを生じます。また、剥がれ落ちた軟骨が関節の動きを障害したり、変形性関節症を進行させる原因となります。成長期の大型犬(5~10ヶ月齢)に多く発生しますが、ある程度成長してから症状を呈することもあります。OCDは関節鏡検査によって確定診断が可能で、関節鏡下手術によって遊離した軟骨を摘出することができます。しかし、遊離軟骨があまりに大きい場合は関節切開術による摘出が併用されることもあります。

②上腕二頭筋腱鞘滑膜炎

中〜大型犬に発生しやすく、軽度〜中程度の前肢跛行を呈します。二頭筋の活動時に疼痛が発生しやすく、慢性進行性に変形性関節症を引き起こします。関節鏡によって診断と治療(腱切断術)を行うことができます。

  • 肘関節

①内側鈎状突起離断(FMCP)

尺骨の内側鈎状突起が分離したり、癒合障害を起こすことで痛みが生じ、前肢跛行を起こす疾患です。症状は様々で無症状〜中程度の跛行までみられます。はっきりとした原因は解明されていませんが、骨軟骨症や橈骨・尺骨の成長不均衡などが大きな要因と考えられています。そのため、両側性に発生することが多いです。大型犬に多く発生がみられ、中高齢になってから症状が強くなることがあります。関節鏡検査によって、確定診断することが可能です。また、関節鏡下で分離した軟骨を摘出したり、軟骨糜爛部分の治療を行うことができます。尺骨骨切り術やPAUL(Proximal Abducting Ulna Osteotomy)などを併用して行うことがあります。

②離断性骨軟骨症(OCD)

肩関節のOCDと同じ病態が肘関節内(上腕骨内顆の軟骨が分離)にも生じることがあります。関節鏡検査によって確定診断が可能で、関節鏡下手術によって遊離した軟骨を摘出することができます。


実際の症例1

・犬種:ボーダーコリー

・年齢:5歳齢

・体重:17kg

・主訴:寝起きに右後肢をかばうようになっている

触診や歩行検査、レントゲン検査の結果から前十字靭帯が疑われたため、関節鏡検査を実施

関節鏡検査:左写真の矢印は部分断裂した前十字靭帯(前内側帯)を示します。また、半月板は正常所見でした(右写真)。

術後のレントゲン写真:関節鏡検査にて前十字靭帯の部分断裂を診断後に、膝関節の安定化を目的として脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)を行いました。

診断:右前十字靭帯部分断裂

術後の経過

関節鏡検査によって、早期診断と早期治療介入を行えたこともあり、術後の経過は良好でした。術後1ヶ月では跛行はみられなくなりました。術後2ヶ月で骨切り部位の骨癒合を確認したため、安静を解除しました。


実際の症例2

・犬種:雑種

・年齢:7歳齢

・体重:22kg

・主訴:数ヶ月前から常に左後肢を跛行している

触診や歩行検査、レントゲン検査の結果から前十字靭帯が疑われたため、関節鏡検査を実施

関節鏡検査:前十字靭帯は完全断裂していました(黄色矢印)

関節鏡検査:内側半月板は損傷し、前方へ変位していたため(左写真・黄色矢印)、関節鏡下で損傷した半月板の切除をしました(右写真)。

術後のレントゲン写真:関節鏡検査にて前十字靭帯断裂を診断後に、膝関節の安定化を目的として脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)を行いました。

診断:左前十字靭帯完全断裂、内側半月板損傷

術後の経過

術後は徐々に跛行の改善がみられ、術後2ヶ月で跛行は消失しました。術後2ヶ月で骨切り部位の骨癒合を確認したため、安静を解除しました。その後の経過は良好ですが、半月板の損傷が重度であったため、変形性関節症の進行に注意が必要です。


実際の症例3

・犬種:アイリッシュセッター

・年齢:1歳齢

・体重:21kg

・主訴:6ヶ月齢から左前肢を跛行するようになり、痛み止めを内服するとやや改善するが治らない

左肩関節のレントゲン写真:上腕骨頭にわずかな糜爛様所見(黄色矢印)を認め、関節内に石灰化した構造物を認めます(黄色矢頭)。

関節鏡検査:肩関節内に遊離する軟骨片(黄色矢印)を確認し、関節鏡下で特殊器具を用いて摘出しました。赤矢印は滑膜の充血を示します(滑膜炎所見)。

写真:摘出した遊離軟骨片

診断:上腕骨頭の離断性骨軟骨症(OCD)

術後の経過

術後は一過性に跛行の悪化を認めましたが、術後1ヶ月でほとんど跛行はみられなくなりました。その後も跛行はみられず、術後2ヶ月で運動制限を解除し、経過は良好でした。


実際の症例4

・犬種:ゴールデンレトリバー

・年齢:1歳5ヶ月齢

・体重:32kg

・主訴:8ヶ月齢から左前肢を跛行しており、寝起きに症状が強い

触診やレントゲン検査の結果から肘関節疾患が疑われたため、関節鏡検査を実施

関節鏡検査:内側鈎状突起の軟骨不整と亀裂が認められ(黄色矢印)、内側鈎状突起の癒合障害と診断しました。

術後のレントゲン写真:関節鏡検査にて内側鈎状突起分離症を診断後に、尺骨内側鈎状突起部分にかかる負荷を減らすためにPAUL(Proximal Abducting Ulna Osteotomy)を実施しました。

診断:左前肢 内側鈎状突起分離症(FMCP)

術後の経過

術後は厳重な安静を指示し、術後2ヶ月で骨切り部位の癒合を確認したため、安静を解除しました。術後1ヶ月で左前肢の跛行は改善し始め、術後2ヶ月では寝起きにわずかな跛行を認めるのみになりました。その後も、時折寝起きに左前肢に跛行することがみられるものの、ほとんど症状がなくなり、経過は良好でした。

FMCPは完全に機能回復することが難しい疾患と考えられており、最善の治療をしても変形性関節症の進行は避けられません。そのため、適切な体重管理やサプリメントなどの併用が推奨されており、予後に注意が必要な疾患です。


まとめ

関節鏡検査はレントゲン検査やCT検査で診断がつかないような小さな関節疾患でも診断することが可能であり、同時に治療を行うこともできる優れた検査です。また、従来の関節切開術よりも痛みが少なく、術後の回復が早いというメリットもあります。

獣医師からのメッセージ

関節鏡検査は適応となる関節疾患がある程度決まっております。また、関節鏡検査には全身麻酔が必要になります。当院では様々な関節疾患に対応しており、関節鏡検査が推奨される疾患であるかどうかを適切に判断することができます。犬の小さい関節を扱う困難さや、その技術習得に時間がかかることから一般的にはおこなわれていない特殊な検査ですが、少しでもより良い医療を飼い主様・ワンちゃんにご提供できればと思います。

整形外科担当獣医師:保田裕起

ページトップへ