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CASE 症例紹介

犬の免疫介在性の関節炎

こんにちは。今回は犬の跛行の原因となる免疫介在性関節炎をご紹介いたします。

症例

・ポメラニアン

・7歳(♂)

・さくらちゃん(仮名)、

・主訴:数ヶ月前から右後肢を寝起きに挙上するようになり、来院されました。

診察内容

触診では右膝蓋骨の内方脱臼グレード2や膝関節の腫脹を認めました。レントゲン検査では大きな異常は認められませんでした。また、血液検査では炎症マーカーであるCRPが2.3mg/dl(基準値<1.0mg/dl)であり、やや高値を示していました。飼い主様の同意を得て後日、関節液検査を実施しました。

全身麻酔下で関節液を採取している写真です。関節液検査は安全かつ無菌的に行う必要がありますので、麻酔や関節部の毛刈り・消毒が必要となります。関節液はやや白濁し、粘稠性の低下が認められました。

左の写真が実際に採取された関節液を染色し、顕微鏡で観察したものです。矢印は好中球という細胞を示し、通常の関節液には見られないものです。右は正常なワンちゃんの関節液で、細胞成分がほとんど認められず、紫色のグラデーションの模様が見られます。このグラデーションは関節液のムコ多糖類が染色されたもので、正常な関節液に多く認められます。

さくらちゃんは、手根関節にも同様の関節液検査の結果を認めました。また、関節液の細菌培養検査や血液中の抗核抗体検査・リウマチ検査を実施しましたが、いずれも陰性でした。

診断

以上の検査結果から、免疫介在性多発性関節炎と診断しました。

  • 免疫介在性多発性関節炎とは?

免疫介在性多発性関節炎は、免疫異常によって自身の関節を敵とみなして攻撃してしまう自己免疫疾患です。体には関節がいくつもあるため、複数の関節で関節炎が生じてしまうことが多いです。その結果、関節の痛みによる跛行や、多関節の痛みによる運動不耐性(歩きたがらない、散歩を嫌がる)、時に発熱や食欲不振が見られます。

しかし、最近では多発性ではなく、単関節性、つまり1つの関節にしか関節炎が生じない稀なタイプの免疫介在性関節炎も増えている印象です。この場合、跛行以外に症状を認めることがないため、他の整形疾患(とくに膝蓋骨脱臼や前十字靭帯断裂)と誤診されることがあるため注意が必要です。

  • 免疫介在性多発性関節炎の原因は?

残念ながら明確な原因は分かっておりません。過去の投薬や麻酔、ワクチン接種、感染、外部環境因子など多数があげられています。また、中高齢の犬に起きやすいという特徴があります。

治療

治療はステロイドや免疫抑制剤を使用した免疫抑制療法を用います。これによって関節の炎症が引くことで症状が改善します。しかし、根治することは難しく、生涯の投薬が必要になるケースが多いです。

さくらちゃんの場合もステロイドと免疫特性剤を併用することで症状の寛解がえられました。飼い主様は、さくらちゃんが以前よりも活発に走り回るようになったと大変喜んでおられます。

獣医師からのメッセージ

以前よりも散歩を嫌がるようになった、寝起きに足をかばう様子が見られる、動きがゆっくりになったなどの症状は単なる歳のせいではなく、このような関節炎が潜んでいるかもしれません‼︎少しでも気になる症状があれば当院にご相談ください。

獣医師:保田裕起

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