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CASE 症例紹介

犬の蛋白漏出性腸症

こんにちは。今回は犬の蛋白漏出性腸症についてご紹介いたします。

蛋白漏出性腸症とは?

蛋白漏出性腸症とは血液中のタンパク質(とくにアルブミン)が腸管腔に漏れ出してしまう疾患の総称であり、原因としてはリンパ管拡張症や炎症性腸疾患、消化管型リンパ腫などがあげられます。

症状としては、慢性的な下痢や嘔吐、痩せる、腹囲膨満などがあります。

血液中の主要なタンパク質であるアルブミンは血漿浸透圧(血管内に水分を保つ機能)に重要な役割をしているため、低アルブミン血漿になると血管内の水分が体腔に漏れ出し、胸水や腹水が発生します。その結果、血液の循環障害や呼吸障害、血栓症を引き起こしやすくなるため、低アルブミン血漿は早急に治療が必要とされる状態とされています。


症例:あいちゃん(仮名)、12歳、ミニチュアダックスフンド、避妊雌、4.5kg

主訴:以前からやや軟便気味で痩せてきたとのこと

一般身体検査では、痩削と軽度の腹部膨満を認めたため、血液検査と腹部超音波検査を実施しました。

血液検査では炎症マーカーであるCRPの軽度上昇(1.5 mg/dl 正常値:0.7以下)や中程度のアルブミンの低下(1.5g/dl  正常値:2.6~4.0)を認めました。また、超音波検査では微量腹水や小腸粘膜の異常所見を多数認めました。

超音波検査の画像です。小腸粘膜の不整所見や黄色矢印のような小腸粘膜の高エコー(白い)所見が認められました。また、赤矢印のように腹膜の高エコー所見を認めました。

後日、麻酔下での内視鏡生検を実施しました。

内視鏡(胃カメラ)にて十二指腸内を撮影した写真です。粘膜の充血所見や黄色矢印のような微細の白色病変を多数認めました。また、同時に内視鏡下で粘膜生検(粘膜の一部を数ミリ切除して検査すること)を実施し、病理組織検査を行いました。

病理組織検査結果:小腸のリンパ管拡張症およびリンパ球形質細胞性腸炎

リンパ管拡張症は小腸粘膜に存在するリンパ管が破綻や閉塞することで腸内にタンパク質を多く含むリンパ液が漏れ出す疾患です。原因としては特発性や食餌性、炎症性などが存在しますが、原因不明なものが多いとされています。

リンパ球形質細胞性腸炎は慢性的な腸炎を示し、感染性やアレルギー性の原因のほかに原因不明なことも多いです。食事療法や一般的な治療に反応しない原因不明なものは、とりわけ炎症性腸疾患と総称されています。

治療

蛋白漏出性腸症の治療には、主に食事療法(高タンパク・低脂肪食)や内服薬(免疫抑制剤・抗炎症剤・整腸剤など)が用いられます。また、症状が重度で腹水が多量の場合は腹水の吸引処置や輸血(血漿タンパクの補給)が必要となることもあります。

あいちゃんの場合も食事療法と内服薬の治療を行い、治療開始から1週間で軟便や食欲は改善し、1ヶ月後には腹水もなくなりました。

獣医師からのメッセージ

蛋白漏出性腸症はいつの間にか進行していて、気付かれにくい病気です。愛犬が慢性的に軟便や下痢をしていたり、痩せてきたり、お腹が膨らんでいるという場合は、病院を受診して血液検査を受けていただくことをお勧めします。

また、蛋白漏出性腸症には複数の原因があり、その原因によっては治療方法が全く異なることがあります。治療を開始する前に内視鏡検査や開腹下での腸生検にて原因を確定させることも重要となります。

基本的には治療をやめてしまうとすぐに再発してしまうため、発症した場合は永続的な治療が必要とされることが多いです。お薬の副作用が出ていないか、血液中のタンパク質は維持できているかを確認するために症状が落ち着いていても継続的な通院が重要となります。

獣医師:保田

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